2012年09月

2012年09月20日

地下鉄の中で

地下鉄の中で
 
 地下鉄に乗ると、必ずドアのところに立つようにしている。
 というのは、若い人々が席を譲ってくれるからだ。
 私と同じぐらいの年齢と思われる人が、席を譲ってくれたりすると大ショクを受けるので、地下鉄やバスではドアのところに立つようにしている。
 それでも、若い人が自分が座っている席を立って私のところまでやってきて、肩を叩いて「どうぞ、座ってください」と、言って席を勧めてくれる。
 子どもを連れたり、赤ちゃんを抱っこした乗客が乗ってくると、数人が一斉に立ち、席を譲る。
 日本では見られなくなった光景だ。
 これは台北で地下鉄(捷運・MRT)に乗ったときの話。


toyo2012sa at 20:27|Permalink台湾 

2012年09月19日

台湾の酒

 台湾の酒
 いくら身体に害があるといわれても、好きな人にとってはどうしてもやめられないのがタバコとお酒です。
 台湾にも、いろいろな種類のお酒があります。
 台湾ではお酒もタバコも専売で、台湾省○酒公売局が一手に製造販売をしています。台湾で一番有名なものは、日本でもよく名前を知られている紹興酒です。通称、老酒(ラオチュウ)とも呼ばれますが、中国大陸浙江省紹興県で、昔から盛んに造られたのでこの名前がつけられました。
 もち米を炊き上げて酵母と共に液状にし、それに小麦こうじを加えて酒樽の中で三年ほどねかせて造った無添加純粋醸造酒です。アルコール度十七度で、特に油っこい中国料理にはよく合い、悪酔い、二日酔いの心配がないという、何だか非常にいいことずくめのようなお酒です。
 五年以上貯蔵した紹興酒は陳年紹興酒と呼ばれ、さらにもっと貯蔵年数の長いものは花彫酒といわれています。
 名前がつけられた中国大陸の紹興酒は、昔は家ごとにこの酒を造り、それを大きな瓶の中に入れて埋めていたそうです。特に娘が生まれると貧富を問わず、必ずこの酒を造って地下に埋めておきます。その娘が成長して結婚するときに、それを掘り出して娘に持たせて嫁がせました。婚礼の席では花嫁の持参した酒を出します。席上長老がこの酒は何年の酒かと尋ね、もし十八ねんという答えがかえってくれば、娘が生まれたときに造った酒ですから、花嫁は芳紀十八歳ということがわかるわけです。
 この紹興酒を飲むときは乾燥梅干しを入れると甘く口当たりがよくなり、レモンのしぼり汁を入れるとサッパリした味になります。日本酒のように燗をして、少し温めて飲むと舌触りがよくなります。
 同じもち米を使った醸造酒としては、紅露酒があります。これは台湾や福建の紅こうじを加えて醸造したもので、台湾、福建に特有のお酒です。まろやかで刺激の少ない飲みやすいお酒です。
 蒸留酒の代表的なものは、高梁酒です。ウイスキーと比較される風味ある東洋の銘酒で、高梁を原料にして伝来の特殊個体醸造法によって造られ、アルコール度は六十五度もあります。
 五加皮酒は、高梁酒に五加皮をはじめたくさんの漢方薬の草の根や木の皮を浸し、さらに蜂蜜や麦芽糖を混合して長期にわたって貯蔵した薬味酒です。あまり一般的ではありませんが、古くから不老長寿の酒として有名だそうです。アルコール度は四十八度。まことに中国らしいお酒といえます。
 酒屋にならぶ数々のお酒の中でも、白い陶器に竹の葉の模様の描かれた風雅な小瓶がひときは目立っていますが、これが高○主に薬草や竹の葉を加えて造った竹葉青酒です。色は淡い緑色をしています。
 台湾ではバーのカウンターの片隅でチビリチビリという飲み方は一般的ではなく、ほとんどの場合は何人かで食事をとりながらワイワイ飲むというやり方です。そして、飲み方も自分一人でゴクゴク飲んでいるのは礼儀に反する飲み方で、その場にいる人(ふつうは目上の人から)に「敬酒」して飲みます。
 同じく敬酒された方も飲むわけですから、お酒好きなら絶えず敬酒したりされたりする必要があります。この時に乾杯(カンペイ)と言うと、必ず文字通りに杯を乾して、カラになった証拠に相手に杯の底を見せます。お酒に弱い人は、この乾杯にうっかりのると大変ですから、乾杯と言われたときには随意(スゥィイ)と答えましょう。これは自分の思うだけ飲みましょうという意味で、半分でも、口をつけるだけでもいいわけです。
M・I 


toyo2012sa at 19:40|Permalink台湾 

 台北で見ようチャイニーズオペラ

 台北で見ようチャイニーズオペラ
 チャイニーズオペラ、独特の節回しで歌い、アクロバットまがいの動作を演じ、その派手な衣装と顔のくまどりで一度見たら忘れられない印象をあたえるこの中国独特の歌劇は、まさに中国文化を代表するものの一つであるといえるでしょう。京劇、国劇とも呼ばれています。
 近代劇が写実主義的であるのに対して、国劇は象徴主義をその特徴としていて、通常は舞台装置というものがほとんどありません。せいぜい机や椅子を並べる程度で、背景や小道具も最小限です。そして机や椅子が、単にそれだけの役目にとどまりません。
 例えば、机をつみ重ねてその上を飛んだり降りたりするのは、山や城壁を登ったり降りたりする動作をあらわし、房のついた鞭を手に持ってふり上げると馬に乗ったことになります。また、風をあらわす大きな旗をふれば大風が吹いていることになります。門を入ったり出たりするのも、何もない空間で一定の手振り身振りをすることであらわします。 こうゆうふうに書くと、国劇というのはすべて象徴的で、約束事がわからなければ全く理解できないのではと思われますが、非常に洗練された無駄のない所作はただ見ているだけで美しいものです。
 もちろん簡単な知識があればなお一層楽しく見られますが、門を開ける動作など知ってみれば、なるほどあたかもそこに門があるように感じられてきます。
 ところで、道具だてがこれだけ簡素に徹しているのに比べ、衣装は華麗で種類も多く、その服装を見ただけで登場人物の身分、地位、年齢、性格がわかります。
 そして最大の特色は、顔の隈取りです。衣装、冠、隈取りのいずれも、その役柄によって細かく定められています。
 役柄は大きく四種類に分けられます。生、旦、浄、○と呼ばれます。
 生は、いわゆる立て役で学者、政治家、戦士などに扮します。隈取りはしませんが、青年役の「小生」は白く塗り、目のまわりを赤くします。最近では女性が演じることが多く、アルトの美しい歌声を響かせます。宝塚の男役のような感じで人気があります。老け役はヒゲをつけます。武人に扮する者を「武生」、忠臣などに扮する者を「老生」といいます。 旦は女性の役で、主役の良家の婦人や貞淑な夫人、貧家の夫人などの役を「正生」、または「青衣」といい、劇の中で最も美しい登場人物です。
 妖婦や酒場の女性に扮する者を「花旦」、年寄り役を「老旦」、鎧を身につけて立ち回りをする者を「武旦」といいます。
 浄は戦士や盗賊、判事、政治家、神などの役で、すべて顔にすみどりをします。すみどりは役によりすべて決められています。色でいえば、赤は忠義を、黒は剛直で誠実さを、緑は粗暴で不平の人を、神や仙人は金や銀で、それぞれ表現します。
 ○は道化役で、この役だけは口語体で話します。化粧はしないで、顔の真ん中をちょっと白くぬる程度です。身振りも軽快で、駄洒落をいったり面白いどうさをして、観客の気持ちをリラックスさせます。
 劇の種類は大きく二つに分かれ、歌をじっくり聞かせる文芸ものと、舞台せましと飛んだり跳ねたりして観客をわかせる活劇があります。
 通にいわせると、国劇は何といっても歌が魅力で、独特の発声法と節回しを楽しむのが最高で、舞台など見ずに目をつむって歌のみを楽しむのが粋だということですが、そこまでいくには相当な年期が必要でしょう。
 われわれ初心者は、やはりきらびやかな衣装をまとい、ハッとするような危なっかしい動作をいとも軽々とやってのける活劇に目を奪われます。
 私たちにもなじみの深い『孫悟空』はメーキャップも猿らしく、その動作も猿そっくりですし、『白蛇伝』もストーリーがわかりやすく、活劇の場面も歌もじっくり聞かせるところもあって入っていきやすいものです。
 台北では、鉄道の台北駅から南へ延びる中華路に面して『国軍文芸活動中心』があります。ここでは一年中、国劇をやっています。胡弓の音色と共に、ぜひ観賞してみてください。
M・I


toyo2012sa at 19:38|Permalink台湾 

台湾大学周辺

 台湾大学周辺
 台北市の南の端、北から南に向かう二本の幹線道路の新生南路と羅斯福路(ルーズベルト道り)にぶつかる所に台湾大学があります。
 かって日本統治時代に台北帝大として創建され、そののち国立台湾大学と名前を変え、現在では大学を目指す全台湾の高校生のあこがれの的です。
 台湾では統一入試が実施されているので、大学がはっきりランクづけされており、その中でも誰もが第一志望として台湾大学の名前を書きます。
 広大なキャンパスをもつ校内は、正門からまっすぐに大王ヤシの並木が続き、その左右に重厚なレンガ造りの校舎が散在しています。その昔、台北帝大で学んだ人が四十年ぶりに母校を訪れて、以前と全く変わらない姿に感銘を新たにしたという話しを聞きました。
 新設の大学に比べると格段に広いキャンパスは、歩いていてはとてもまどろっこしいので自転車は学生の必需品です。
 静かな大学と対称的に、その周辺は建設ブームです。
 大学の横を流れていた川が埋め立てられて新生南路となったのはもうずいぶん前のことですが、最近まで近くに台北帝大時代に職員や教授用に建てられた平屋の瓦屋根を持つ日本式家屋が並んでいました。
 赤く塗られた門に少し違和感がありますが、ハイビスカスやブーゲンビリアの間から垣間見られる格子窓や屋根瓦に時の流れの不思議さと少しうしろめたい懐かしさを感じたものです。もちろん内部は台湾の人々の生活にあわせ相当改造されていますが、でもこれらの住宅も老朽化のため、どんどん壊されて高いマンションに変わりつつあります。もう十年もたつと日本時代の面影はすっかりなくなってしまうでしょう。
 大学の正門から羅斯福路を渡って向こう側へ行くと、学生相手の食堂が並んでいます。『自助餐』と呼ばれるキャフェテリアや安い定食の店があります。観光客が行くような店とちがって豪華な装飾と白いテーブルクロスはありませんが、味は優るとも劣らず、毎日食べてもその豊富なメニューは、あきることはありません。
 夜になれば屋台や夜店が並び、果物でも他の場所より二割は安いでしょう。観光客が行っても、何せ学生相手の商売ですからボラれる心配はまずありません。スイカやパイナップルを一口大に切ってビニール袋に入れて十元(六十円)で売っているのを買って食べながら夜店をひやかして歩いていると、熱い台北の夏も気にならなくなってきます。
 低料金で質のいい映画を上映することで名高い『東南亜電影院』(東南アジア映画館)も、この近くにあります。
 最後の映画が終わって出てきても、夏の夜は長く屋台でビールと海鮮料理を楽しむ人がいっぱいです。ようやく夜の三時ごろになって店が閉まったと思ったら、四時半ごろには太極拳を楽しむ人の姿が、もうキャンパスにあらわれます。
 ◆この原稿は、一九八三、四年頃に執筆したものです。
M・I


toyo2012sa at 19:36|Permalink台湾 

台湾の映画

台湾の映画
 最近、日本では『水滸伝』『少林寺2』『プロジェクトA』と中国映画が相次いで公開され、ちょっとした中国映画ブームのようです。
 その中に台湾で製作されたものが入っていないのがちょっと寂しいですが、空席の目立つ日本の映画館と違って、ビデオが普及してきたとはいえ台湾はまだまだ映画天国です。
 四、五年前の統計では、台湾の人々が世界で一番、たくさんの映画を見ているそうです。大きなファッションビルが建つと、その中には必ずといっていいほど映画館が併設されます。なかでも通称「西門町」と呼ばれる台北一の繁華街の一角には『電影街』(映画街ー中国語で映画は電影といいます)と人々から親しまれている通りがあり、大小十数軒の映画館が並んでいます。
 数段人気の高いのは洋画ですが、旧正月に公開された映画の中ではジャッキー・チェンの『プロジェクトA』(A計画)が大ヒットして、今年は久々に中国映画が盛り返しました。
 台湾の映画館は、封切館は全館指定席で入れ替え制です。
 上映時間の一時間前から入場券が発売されますが、評判のいい映画になると発売時間のそのまた一時間ぐらい前から並んで待たないといい席が取れません。そこで登場するのが黄牛(ダフ屋)です。
 なぜ黄色い牛なのかはさだかではありませんが、上映時間ぎりぎりにやってきて売り切れの札がさがった発売窓口の前でため息をついていると、スーッと近寄ってきて、「買いませんか」と、そっと入場券を見せます。
 もちろん少し割高ですが、もともとが八十元~九十元(四百八十円~五百四十円)と日本に比べると格安の値段ですから二十元(百二十円)ぐらい高くついても、黄牛の売る席は大体いい席なので買う人が結構多くいて、黄牛も立派(?)に商売として成り立つわけです。
 大ぴらにできる商売ではありませんが、買いたい人と売りたい人のバランスがよく合っているので、警察の取り締まりもあまり効き目はないようです。
 入場券を買って中に入りますと、ジュースやお菓子の販売スタンドがあり、壁に次の映画のスチール写真などが貼ってあるところは日本と同じです。ただしポスターやパンフレット類は全く販売されていません。何しろ映画の回転がすこぶる早いのです。
 洋画のロングランになると二か月ほど続くことがたまにありますが、普通は二週間、中国映画は一週間でかわっていきます。入りの悪い映画になると、三日でかわる場合も出てきます。これではパンフレットを作っている暇などありません。
 映画の前に広告が入るのはいずこも同じ、違うのは広告が終わり予告編がはじまる前に国歌が演奏されることです。演奏の間スクリーンでは農工業、陸海空軍の姿から国慶節の祝典のようすまで、わずか一分三十秒の間に、現在の台湾のすべてが凝縮されて紹介されます。ほんとうに短い時間ですが、なかなか見応えがあります。
 さて、洋画に中国語の訳がつくのは当然ですが、中国語映画にも中国語の字幕と英語訳がつきます。中国語を話しているのに中国語の字幕がつくなんて奇異に感じるかも知れませんが、これはテレビの場合も同じで、テレビはいわゆる共通語の北京語と方言の台湾語の放送があり、どちらか一方の言葉しか知らなくても字幕を見れば話している意味がわかるようになっています。
 土地が広くて古い歴史を持っている中国のことですから方言もたくさんあり、山一つ隔てると言葉が全く通じないことも多く、その中で一つの文化圏としてまとまってこられたのは、たとえ話す言葉が違っても書く文字は同じという点に負うところが大きいといえるでしょう。
 話しが横道にそれましたが映画にもどって、台湾で人気が高い映画は「007」シリーズや『スターウォーズ(外星人)』など楽しく見られる娯楽巨編で、深刻なものはあまりヒットしません。
 007の最新作『ネバーセイ・ネバーアゲイン』は、『巡弋飛弾』と訳されています。ほかに例をあげると、『フラッシュダンス』は『閃舞』、『ジョーズ3』は『一柱○天』、『スティンアライブ』は『龍飛鳳舞』など。
 朝は十時ごろから四回ぐらい、夜は七時ごろから二回上映されており、映画は家族で楽しむ娯楽です。
 女の子をデートに誘う最初の言葉は、「映画に行かない?」(お茶飲まない?ではありません)という所ですから、強烈なベッドシーンはもちろんのこと、日本のテレビでは日常茶飯事になっている女性の上半身のヌードも厳禁で、健全なことこの上ありません。ただ洋画ではカットの部分が続出で健全になりすぎて、ストーリーがよくわからない場合もしばしばです。
 かの『エマニエル夫人』も上映されたと聞いていますが、もしかしたらカットの部分の方が多かったかも・・・
 洋画はアメリカ映画が主で、ヨーロッパ映画でも英語版のためアランドロンも画面では英語を話しています。ほかに韓国映画も時々上映されます。日本映画は国情のため十一年前から上映されていませんが、最近再び解禁される方向にむいてきました。
 三十歳以上の人は、昔見た岸恵子や小林旭、浅丘ルリ子、吉永小百合など懐かしそうに話しているので、また日本映画が上映されるようになると日本映画ブームが起こるかもしれません。
 日本人や韓国人の名前は、そのまま漢字で表せます。しかし、中国語にはカタカナのような便利な表音文字がありませんので、欧米人の名もやはり漢字を使って表さなければなりません。
 中国語って、やはり難しいですね。
 ◆この原稿は、一九八三、四年頃に執筆したものです。
M・I


toyo2012sa at 19:34|Permalink台湾 映画